Fable 5 が公開されて 2 週間以上、そして GPT 5.6 が公開されてから、1 週間が経ちました。
この短い期間に、私は10件以上の作品、プロダクト、サービスのプロトタイプを制作しました。ウェブ上に公開しているものの一部は、下記のとおりです。ウェブに公開していないものあります。
- 西田幾多郎の概念双銀河
- 存在の DNA
- Phase Sampler
- Sampler Galaxy
- デジタル鳴子
- Smart Theremin
- Smart Kachashi
- Orbital Pulse
- Odd Engine
- 【無料体験版】ChatGPT / Claude で、アイデアをアプリにするツール
さらに、実装には至っていないものも含めると、50件を超える新しいアイデアが生まれました。
数字だけを見ると、AIによって制作量が増えたという話に見えるかもしれません。しかし、私にとってこの2週間の最大の収穫は、たくさん作れたことではありません。
自分が何に惹かれ、どのようにアイデアを生み、それをどのような手順で作品へ変えているのか。その創作プロセスを、実際の制作を通して客観的に捉えられたことです。
振り返ると、この2週間の制作には、大きく三つの段階がありました。
第一段階──研究として本当に作りたかったもの
最初に制作していたのは、一般向けの便利なアプリではありませんでした。
例えば、次のような作品です。
- 西洋哲学史を三次元空間へ写像した「存在のDNA」
- ドビュッシー作品をクープマン解析によって分析する計算音楽学的研究
- 天体運動を音楽へ写像する「Orbital Pulse」
扱っている対象は、哲学史、音楽、数理、宇宙物理とさまざまです。しかし、自分の中ではすべて同じ問いから生まれています。
それは、異なる分野の構造を、別の表現形式へどのように写像できるかという問いです。
哲学を空間へ写像します。宇宙の運動を音楽へ写像します。音楽作品に潜む変化を数理的な構造として取り出します。
私は以前から、単に音楽を作ることだけでなく、「現実世界の構造をどのようなルールで音へ変換できるのか」「抽象的な概念を、目で見たり手で触れたりできる形へ変換できるのか」という問題に強い関心を持っていました。
しかし、こうした構想は技術的な負荷が大きく、以前ならノートに書いたまま眠っていた可能性があります。思考実験としては成立しても、実際に動くものへ到達するまでには、設計、実装、検証という長い距離がありました。
AIとの対話を取り入れたことで、その距離が大きく縮まりました。頭の中にしかなかった関係性を整理し、仕様へ落とし込み、まず動く形にするところまでを短期間で進められるようになったのです。
第二段階──研究として面白くても、伝わるとは限らない
一方、制作物を公開することで、別の課題も見えてきました。
それは、研究として面白いことと、多くの人に面白さが伝わることは、必ずしも一致しないという問題です。
例えば、「ドビュッシー作品をクープマン解析しました」と説明しても、その意味や面白さを理解するには、計算音楽学や力学系理論について、ある程度の知識が必要です。哲学史を三次元空間で可視化した作品も、思想家同士の関係や配置の意図を知らなければ、何を見ればよいのか分かりにくいかもしれません。
作っている本人にとっては、これ以上ないほど刺激的です。しかし、見る側に前提知識を求める作品は、入口が狭くなります。
ここで私は、研究の内容を薄めるのではなく、まずは説明なしでも触れられるプロダクトを作ってみようと考えました。
その試みから生まれたのが、次のようなブラウザ楽器です。
- スマートフォンで鳴子の感覚を楽しめる「デジタル鳴子」
- 端末を振ることで沖縄音階を演奏する「Smart Kachashi」
- 身体の動きで音を操る「SMART Theremin」
これらは、理論を理解してもらうことよりも、「触ってみたら楽しい」と感じてもらうことを優先しています。
スマートフォンを振ります。画面をタップします。身体を動かします。それだけで音が生まれ、音楽に参加できます。
専門知識を入り口にするのではなく、体験を入り口にする設計です。
第三段階──研究を「遊べる形」へ翻訳する
さらに制作を続ける中で、研究と分かりやすさは二者択一ではないことに気付きました。
私が本当に目指したいのは、研究的な作品と親しみやすい作品を別々に作ることではありません。研究的なアイデアそのものを、直感的に遊べる体験へ翻訳することです。
その考えから生まれたのが「Odd Engine」です。
Odd Engineの出発点には、一般的なステップシーケンサーに対する疑問がありました。
多くのステップシーケンサーは4拍子を前提とし、「4×4=16ステップ」という構成を基本にしています。これは音楽制作において非常に合理的な設計です。一方で、その枠組み自体は長年ほとんど変わっていません。
そこでOdd Engineでは、拍やステップ数を固定せず、任意の整数で分割できるようにしました。
例えば、5分割、7分割、9分割、11分割といった奇数分割を自由に設定できます。さらに、異なる分割数のシーケンサーを同時に動かすと、それぞれの周期が少しずつずれ、単一のグリッドからは生まれにくいリズムやフレーズが立ち上がります。
背後には、ポリリズム、位相のずれ、周期構造といった音楽的・数理的な考え方があります。しかし、ユーザーはそれらの用語を知る必要がありません。
触っているうちに、いつもの拍子では出会えなかった音楽が生まれます。難しい理論を先に説明するのではなく、理論が生み出す現象を、操作を通して先に体験してもらいます。
Odd Engineは、音楽理論を説明するソフトウェアではありません。理論を意識せずに遊んでいるうちに、その理論が開く世界へ入っていけるインターフェースを目指しています。
「研究をそのまま見せる」のではなく、「研究を遊べる形へ翻訳する」。この方向性が、現在の私の創作の中心になりつつあります。
プロトタイプは、アイデアを現実の制約に置くための実験です
プロトタイプを短期間で作れることには、制作量が増える以上の意味があります。
頭の中で考えているだけなら、どのアイデアも魅力的に見えます。技術的な問題も、操作上の違和感も、まだ存在しないからです。
しかし、実際に動くものを作り、自分で触ってみると、そこで初めて課題が姿を現します。
例えばSmart Kachashiは、スマートフォンを振ることで沖縄音階を演奏するというプロダクトです。コンセプト自体には大きな手応えがありました。ところが、長時間動かして検証すると、音声処理の過程でノイズが発生する問題が見つかりました。この問題は、現在も完全には解決できていません。
完成していないという意味では、失敗に見えるかもしれません。しかし、アイデアのまま終わっていたら、その問題に気付くことすらできませんでした。
課題が見つかったこと自体が、プロトタイプ制作の成果です。
研究でも工学でも、仮説は実験によって初めて検証できます。プロトタイプは、アイデアを現実の制約の中へ置くための実験装置です。
AIの価値は、完成品を自動的に作ってくれることだけにあるのではありません。「仮説→実装→検証→改善」というサイクルを短くし、より多くの実験を可能にする点にあります。
AIはプロダクトだけでなく、開発環境も変えました
この2週間で制作したのは、作品やサービスだけではありません。
複数のプロジェクトを同時に進めるための、進捗管理ダッシュボードも制作しました。
以前は、アイデアやタスクをメモと頭の中で管理していました。しかし、制作数が増えると、「次に何をするのか」「どこで止まっているのか」「何を検証できたのか」が分からなくなります。
そこで、プロジェクトの状態、次の行動、課題、優先度を見える形にしました。これにより、複数のプロジェクトを並行して進めながら、必要なときに思考の続きへ戻りやすくなりました。
AIはコードを書くためだけの存在ではありません。何を作るかだけでなく、作り続けられる環境そのものを設計し、改善するパートナーにもなり始めています。
アイデアの生まれ方は、AIの前後で大きく変わっていません
この2週間で50件以上のアイデアが生まれたと書くと、AIが次々にアイデアを出してくれたように聞こえるかもしれません。
しかし、私の感覚は少し違います。
アイデアそのものの生まれ方は、AIの登場前から大きく変わっていません。私は以前から、本屋で本を眺めているとき、論文を読んでいるとき、あるいは異なる分野について学んでいるときに、離れていた知識が突然つながることがありました。
例えば先日、本屋で「マイクロバイオーム」という言葉を見かけました。その瞬間に、「腸内細菌叢を音楽へ写像できないだろうか」というアイデアが浮かびました。
これはAIがゼロから考えたものではありません。
私の中には、以前から知っていたマイクロバイオーム研究がありました。複数の生物が一つの生態的単位を形づくる「超個体(ホロビオント)」という考え方への関心もありました。そして、現実世界の構造を音楽へ写像するという研究テーマがありました。
日頃のインプットと偶然の出会いによって、それらが頭の中で結び付いたのです。
振り返ると、この2週間に生まれたアイデアの多くは同じ構造を持っています。
- 宇宙を音楽へ写像します。
- 哲学を空間へ写像します。
- 地域文化を音楽へ写像します。
- 腸内細菌叢を音楽へ写像します。
私は新しい素材を次々に探しているというより、異なる分野の間にある、新しい「対応関係(Mapping)」を探しているのだと思います。
AIによって変わったのは、その次の段階です。
以前なら、思いついたアイデアをノートに書き留め、そのまま実装せずに終わることも少なくありませんでした。現在は、AIとの対話を通して、その日のうちに考えを整理し、仕様へ落とし込み、数時間から数日でプロトタイプとして検証できます。
さらに、対話の中で抜けていた視点や別の組み合わせに気付き、次の着想が誘発されます。ひとつの試作が次のアイデアを呼び、そのアイデアがまた新しい試作へ進みます。
AIは、私の代わりに創造しているのではありません。私が持っていた知識、関心、問いを、より多く、より速く試せる環境を作っています。
AIは創作の速度だけでなく、創作の質を変え始めています
AIによって、開発速度は確かに上がりました。
しかし、本質的な変化は単なる時短ではありません。思いついたアイデアをすぐに試せるようになったことで、創作の方法そのものが変わりました。
現在は、次のサイクルを短時間で何度も回せます。
- アイデアを思いつきます。
- 仕様へ落とし込みます。
- プロトタイプを実装します。
- 実際に触って検証します。
- 課題を見つけて改善します。
- そこから次のアイデアを得ます。
試行回数が増えれば、単に成果物の数が増えるだけではありません。頭の中だけでは見えなかった問題に出会い、自分の関心の共通項を発見し、当初とは違う方向へ作品を育てられます。
つまり、速度の向上が検証の密度を高め、検証の密度が創作の質を変えているのです。
現在、私はこの経験を整理し、「AIを使ってアイデアをプロダクトへ落とし込む方法」そのものをBOOTHで無料公開しています。個々のアプリだけではなく、どのように問いを立て、仕様へ変え、試作し、検証するのかという制作プロセスにも価値があると考えているからです。
2週間で得た最大の成果
Fable 5とGPT 5.6が登場してから、まだ約2週間です。
その間に、私は10件以上のプロトタイプを制作し、50件を超えるアイデアを記録しました。
しかし、最大の成果は数ではありません。
研究として掘り下げたい問い、誰でも触れられるプロダクト、そしてAIを活用した開発プロセスが、一つの創作サイクルとしてつながったことです。
研究から体験を作ります。体験から課題を見つけます。課題を解くために開発環境を整えます。そこで得た知見が、また次の研究とアイデアへ戻っていきます。
AIは、創作を代行する機械ではなく、この循環を高速に回すための触媒になっています。
これから半年、一年とこのサイクルを回し続けたとき、自分の作品がどこまで変化し、自分自身がどこまで到達できるのか。
その答えは、私自身もまだ分かりません。だからこそ、これからが楽しみです。

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