Fable 5 か GPT 5.6 か、けっきょくどっち!? AI開発しまくった先に分かったこと

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ここ一週間ほど、完全にAI開発に夢中になっていました。

きっかけは、Claudeの新モデル「Fable 5」です。

Fable 5を使い始めてから、思いついたアイデアを次々と形にしていきました。そして、その熱が冷める間もなく、今度はGPT-5.6が登場しました。

哲学、クラシック音楽、データ分析、デジタルアート、音響信号処理、Webアプリ、オンラインコミュニティ。

振り返ってみると、この一週間で取り組んだものは、かなり幅広い分野にまたがっています。

ただし、完全に無関係なものを思いつきで作っていたわけではありません。

人文学的な問いを計算可能な形に置き換え、分析結果を可視化し、その分析技術を今度は音楽制作アプリへ持ち込む。

この一週間に作ったものは、すべてその往復の中から生まれています。

ハイデガーの「存在」をネットワークとして見る

最初に取り組んだのは、ハイデガーの著作における「存在」の使われ方を可視化するプロジェクトでした。

対象としたのは、『存在と時間』『ニーチェI・II』『哲学への寄与』です。

それぞれの著作について、「存在」という語の周辺に、どのような術語が現れるのかを抽出し、共起ネットワークとして比較しました。

単純な単語の出現回数を見るのではありません。

「存在」と同じ文脈に現れる語同士の関係を計算し、著作ごとに概念の配置がどう変化しているのかをネットワーク構造として表現しました。

さらに、通常のネットワーク図だけでなく、概念が星のように浮かぶプラネタリウム型のインタラクティブ可視化も制作しました。

哲学書の内容を要約するのではなく、哲学者の概念体系そのものを、別の角度から眺める試みです。

このプロジェクトが、後に制作する「存在のDNA」の出発点になりました。

2400年分の「存在」をDNAとして可視化する

次に取り組んだのが、「存在のDNA」です。

パルメニデスからハイデガーまで、13の哲学書を対象に、「存在」という概念の周辺語彙が約2400年間でどのように変化してきたのかを分析しました。

分析には、単語同士の結びつきの強さを評価するPPMI、共起ネットワーク分析、クラスタリングなどを使用しています。

分析してみると、時代や哲学者が変わっても、すべての著作に共通して残る概念は、ほとんど「存在」そのものだけでした。

その一方で、「存在」と結びつく相方の概念は、時代によって次々に交代していきます。

無、非存在、実体、一者、本質、モナド、生成、持続、時間性。

中心にある「存在」は残り続けますが、その周囲の概念構造は歴史の中で組み替えられていきます。

この構造を、DNAの二重螺旋になぞらえて3D空間上に可視化しました。

ユーザーは画面を動かしながら、哲学史における概念の変遷を、二重螺旋の中を移動するように体験できます。

さらに、この分析結果を文章として考察するだけでなく、Sonic Piを使って音楽にも変換しました。

哲学テキストの計量分析、ネットワーク科学、3D Web表現、音楽化を組み合わせた、インタラクティブな人文デジタルアートです。

ドビュッシー24曲を、四つの数理手法で分析する

哲学の次に取り組んだのは、ドビュッシーの楽曲分析でした。

対象は、《前奏曲集 第1巻》の12曲と、《12の練習曲》の12曲、合計24曲です。

これらを、シェンカー理論を簡略化した階層的構造分析、ピッチクラス集合分析、圏論的な変換分析、そしてクープマン解析・DMDという四つの手法から比較しました。

目的は、「前奏曲集」と晩年の「練習曲」の間で、ドビュッシーの作曲様式がどのように変化したのかを、印象批評だけではなく、計算可能な指標として調べることでした。

たとえば、ピッチクラス集合分析では、曲中に現れる音高集合の特徴を調べます。

圏論的な分析では、和音や音型を独立した物体として見るのではなく、それらの間にどのような変換関係があるのかを捉えます。

クープマン解析では、音楽を時間とともに変化する動的システムとして扱い、表面的には複雑な変化の背後に、どのような反復構造や固有モードが存在するのかを分析しました。

24曲の分析結果は、楽曲同士の類似性や距離を表す「群島マップ」として可視化しました。

似た性質を持つ曲が近くに集まり、異なる性質を持つ曲が離れて配置されるため、24曲がいくつかの島を形成しているように見えます。

この分析では、最初に立てた解釈が、追加の感度分析によって部分的に否定されるという出来事もありました。

一度は「特定の練習曲群に発散的な力学がある」と考えましたが、108通りの設定で再計算した結果、それを作品群全体の特徴として断定することはできませんでした。

最終的には、特定の楽曲に現れる局所的な現象として主張を修正しました。

AIは、もっともらしい物語を作るだけでも使えてしまいます。

しかし、今回重要だったのは、仮説を作ることよりも、その仮説が条件を変えても成立するのかを検証し、崩れた部分をきちんと撤回することでした。

Fable 5は、分析コードの作成、結果の整理、感度分析、レポートの改訂まで、一連の研究プロセスを支える相棒として機能しました。

15分で生まれた「Sampler Galaxy」

分析ばかりをしていたわけではありません。

音楽制作アプリも作りました。

一つ目は「Sampler Galaxy」です。

これは、16個のパッドを備えた、ブラウザ上で動作するモジュール型サンプラーです。

React、TypeScript、Vite、Web Audio APIを使って構築し、プリセット音源は外部ファイルに依存せず、コードによって合成しています。

作成した音や設定はIndexedDBに保存でき、日本語と英語の表示切り替えにも対応しています。

ただし、単体のサンプラーとして完結させるのではなく、今後ミキサーやエフェクターを追加できるように、最初からモジュール型の設計にしています。

サンプラー、ミキサー、エフェクターが、共通のインターフェースを通じて接続される構造です。

現在は16パッドサンプラーにあたるModule Aまで完成しており、次はModule Bのミキサー、Module Cのエフェクターへ拡張する予定です。

驚いたのは、このModule Aの原型が、およそ15分でできてしまったことです。

もちろん、15分で商用製品が完成したわけではありません。

それでも、アイデアを伝えてから、実際にブラウザで触れるプロトタイプが現れるまでの速度は、これまでの感覚とは明らかに違っていました。

数理音楽分析を、サンプラーへ持ち込む

もう一つ制作したのが、「PhaseSampler」です。

こちらは、8トラックのステップシーケンサー型Webサンプラーです。

単純に音をパッドへ割り当てて再生するだけではありません。

各ステップごとに異なるパラメータを記録するパラメータロック、二つの設定状態を連続的に補間するシーンA・B、リサンプリング、操作速度に応じて変化量が変わる加速度付きエンコーダー、WSOLA方式のタイムストレッチ、AudioWorkletを利用した音声処理などを実装しました。

ソースコードとテストを合わせると、約2800行あります。

このアプリで最も特徴的なのが、「Modal Variation」という機能です。

ここで、先ほどのドビュッシー分析に使ったDMD、動的モード分解が再び登場します。

DMDは、時間とともに変化するデータから、その変化を構成する固有モードを抽出する手法です。

ドビュッシー分析では、音楽構造を調べるために使用しました。

PhaseSamplerでは、それを音響合成へ転用しています。

音声波形をHankel行列として埋め込み、Exact DMDによって複数の動的モードへ分解します。そして、それぞれのモードの重みや位相を少しずつ変化させてから波形を再構成します。

これによって、元のサンプルを完全に別物へ置き換えるのではなく、元の音が持っていた時間的な骨格や動き方をある程度保ちながら、派生した音を生成できます。

さらに、DMDに必要な固有値計算についても、外部ライブラリへ丸投げせず、Jacobi法やQR反復をTypeScriptで実装しました。

数値計算は、型エラーが出ていなくても数学的に壊れている可能性があります。そのため、DMDの結果を検証する専用テストも作成しています。

ドビュッシーの作曲様式を調べるために使った数理手法を、今度は新しい音を作るための機能としてサンプラーへ組み込む。

この分野横断こそが、今回の一連のプロジェクトで最も面白かった部分です。

PhaseSamplerのプロトタイプは、およそ1時間で形になりました。

以前なら、仕様を考えるだけで終わっていたようなアプリです。

それが、実際に触って音を出せるところまで進んでしまいました。

MPCユーザーのためのコミュニティも作り始めた

その勢いで、日本のMPCユーザー向けフォーラムのプロトタイプも制作しました。

海外には、MPC Forumのようなユーザーコミュニティがあります。

一方、日本語でMPCの使い方や制作ノウハウを共有し、ユーザー同士で質問できる場所は、まだ十分に整っているとはいえません。

そこで、投稿、質問、回答、検索、ユーザー登録などを備えた、日本版MPC Forumのような場所を作れないかと考えました。

将来的には、単なる掲示板ではなく、MPCを教えたい人と教わりたい人をつなぐ、メンターマッチングの仕組みに発展させることも検討しています。

最後にたどり着いた「AI開発スターターキット」

一週間の中で、さまざまなプロトタイプを作りました。

しかし、最後にたどり着いたのは、新しいアプリそのものではありませんでした。

それが、「AI開発スターターキット」です。

AIに開発を依頼するときは、ただ「アプリを作ってください」と伝えればよいわけではありません。

プロジェクトの目的、想定ユーザー、設計思想、使用技術、フォルダ構成、コーディングルール、テスト方針、ドキュメントの残し方、次のAIへの引き継ぎ方法。

こうした前提が整理されているほど、AIは安定して作業できます。

反対に、前提が曖昧なまま開発を始めると、途中で設計がぶれたり、AIが変わるたびに同じ説明を繰り返したりすることになります。

そこで、AIとのプロダクト開発を始めるために必要なファイルやSkillsを、あらかじめ一式にまとめることにしました。

いわば、人間とAIが共同開発を始めるための初期装備です。

この一週間に何度もAIへ指示し、仕様書を書き、テストを行い、引き継ぎ書を作ってきた経験が、そのままスターターキットの設計に反映されています。

「AI開発スターターキット」は、近日中に配布する予定です。

Fable 5とGPT-5.6、結局どちらがよいのか

ここまで読んだ人が一番知りたいのは、たぶんここだと思います。

Fable 5とGPT-5.6は、結局どちらが優れているのか。

正直に言うと、私にはよく分かりません(笑)。

私程度の知識では、どちらが明確に上なのか判断できないところまで来ています。

実装力は、どちらも申し分ありません。

もちろん、本職のソフトウェアエンジニアやAI研究者が、難しいベンチマークや大規模な開発で比較すれば、違いはあるのだと思います。

しかし、非専門家がアイデアを形にする、いわゆるバイブコーディングの範囲であれば、正直なところ、どちらを使っても十分すぎると感じました。

哲学テキストを分析する。

ドビュッシーを数理的に解析する。

3Dのインタラクティブアートを作る。

Webサンプラーを作る。

DMDを使った独自の音響生成機能を実装する。

オンラインコミュニティのプロトタイプを作る。

どちらのモデルでも、こうしたことが現実にできる段階に来ています。

違いを挙げるとすれば、私にとってはコストです。

現時点では、GPT-5.6をCodexで利用するほうが、コストパフォーマンスは高いと感じています。

そのため、Claudeの有料プランはいったん解約し、当面はCodexを中心に使う予定です。

これは、「GPT-5.6のほうが圧倒的に性能が高い」という判断ではありません。

どちらも十分すぎるほど強いので、それなら自分の用途では、より安く使えるほうを選ぶということです。

人間が掃除をしている間に、何かができている

この一週間で、AIとの付き合い方に対する感覚が変わりました。

AIにコンセプトを伝える。

人間はその間に、ランニングをしたり、掃除をしたりする。

戻ってくると、何かができている。

「これを売りたい」とAIに伝えます。

人間は本を読んだり、洗濯物を畳んだりします。

戻ってくると、価格、販売方法、ランディングページの構成、マーケティング戦略が整理されています。

もちろん、完全に放置すれば優れたものが完成するわけではありません。

方向を決めること、結果を確認すること、間違いを指摘すること、何を残して何を捨てるかを判断することは、人間の仕事です。

それでも、実装や調査、文書化に必要な時間は、明らかに変わりました。

もはやAIは、質問に答えたり文章を書いたりするだけのツールではありません。

アイデアを、動くものへ変える存在になっています。

ファミコンとDTMを思い出した夏

この一週間は、自分にとって、ポケモンGOが出たときくらいに熱い夏でした。

さらに昔のことも思い出しました。

子どもの頃、うちにはファミコンがありませんでした。

だから夏休みにいとこの家へ行くと、ずっとマリオをしていました。

朝から何時間もプレイして、目が痛くなってもやめませんでした。

普段はできないものに触れられることが、うれしくて仕方なかったのだと思います。

大学生の頃には、隣で彼女が寝ている横で、朝からずっとDTMをしていたこともあります。

少しだけ作業するつもりが、気づいたら何時間もたっていました。

それくらい夢中になったのは、あの頃以来かもしれません。

Fable 5を使い始めてから、次に何を作ろうかというアイデアが止まりませんでした。

一つ完成する前に、別のアイデアが浮かびます。

眠る時間が惜しくなり、目が疲れても、また画面に向かってしまいます。

子どもの頃にゲームへ夢中になった感覚と、大学生の頃に音楽を作り続けていた感覚が、一緒に戻ってきたような一週間でした。

来年は、本当にどうなっているのでしょう

今年の初めですら、こんなことになるとは思っていませんでした。

AIにアイデアを伝えれば、数時間後には動くプロトタイプができている。

人文研究で使った数理手法が、その日のうちに音楽アプリの新機能になる。

作ったものをどう販売するかまで、AIと並行して考えられる。

そんなことが、特別な研究機関や大企業ではなく、個人のパソコン上で起きています。

来年は、本当にどうなっているのでしょう。

正直、もう予想できません。

ただ、この一週間のことは、たぶん長く覚えていると思います。

ファミコンのマリオを目が痛くなるまで遊んだ夏。

大学生の頃、時間を忘れてDTMをしていた朝。

ポケモンGOが街の景色を変えた夏。

そして、Fable 5とGPT-5.6を使って、アイデアが次々と形になっていった、2026年の夏です。

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